以前勤めていた会社を辞める時にサインした「同業の会社には就職しない」という誓約書は有効でしょうか?
今度雇用しようとしている人が、以前勤めていた会社(市場)を辞める時に、「同業の会社(市場)には就職しません」という内容が書かれていた誓約書にサインしていた為(本人はその内容をあまり確認していなかったようです)採用にあたり前の会社(市場)からクレームがつきました。
このような労働を制約する内容の誓約書は有効なのでしょうか?
市場は花市場で、辞めたあと実家の花屋を継ぐ予定だったのが諸般の事情により継ぐことが出来なくなり、慣れている市場で働きたいといっているのですが、同じ地域に会社があり、毎日のように顔をあわせるので、先方の市場の内情もよく分かっていることが相手には都合が悪いのかもしれませんが、当社としてはぜひ採用したいと思っているの で相談しました。
先方の市場に対して迷惑や不利になるようなことは、決してしないつもりでいるのですが、先方の会長がクレームをつけているだけで、人たちからは言われていません。
(質問no.294 お名前:山田さん 愛知県 労働・セクハラ・パワハラカテゴリ)
当サイトからの回答
競業禁止の規定は一定の条件の下に有効です。
山田さん、はじめまして。無料法律相談ネット、サイト管理人の北条たかと申します。
>以前勤めていた会社(市場)を辞める時に、「同業の会社(市場)には就職しません」という内容が書かれていた
>誓約書にサイン
競合他社への転職については、本来、職業の自由として憲法に規定された基本的人権の1つであるので、労働者としては退職後に自由に別に会社に就職できるところ、それを完全に自由に認めてしまうと、元の会社がそれが原因で損害を受けてしまう可能性がある為に、その予防として就業規則や退職時に誓約書をとったりするのです。
これがいわゆる「競業禁止規定」と言われるものです。
ただし、既述の通り憲法には職業選択の自由があり、競業禁止規定については、どのような場合でも有効になる訳ではありません。
過去の裁判では「習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後に各人がどのように生かし利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない」という旨の判断が為されています。
その為、競業禁止規定を有効に課すにはまず就業規則上の規定が必要となります。
そして、「禁止規定を必要とする合理的理由があるとき、その必要を満たすに必要な範囲でのみ競業を禁止する合意が、正当な手続を経て得られ、かつ、禁止に見合う正当な対価の存在を認められる場合に限られる」
誓約書に関しては、「競業避止義務を合意により創出する場合には、競業行為の禁止の内容が必要最小限度にとどまっており、かつ、労働者の受ける不利益に対する十分な代償措置を取っている事を要する」
という旨の裁判所の判断もあります。
それらをまとめると
- 職務内容と勤務時の地位(前社の営業上の秘密を多く知っている責任者が対象となります)
- 目的が前社の正当な利益の確保(嫌がらせ目的では駄目という事です)
- 禁止の対象が同一職種への就労
- 禁止の期間・場所的範囲が適切(判例では、1年程度の禁止期間は適当と判断される事が多いです)
- 代償措置の有無(競合他社への転職を制限する代償としての金銭保証)
を満たしているかを総合的に判断する事になります。よって、競業禁止に関する裁判では個々の事例によって裁判所の判断もそれぞれ異なっています。
>今度雇用しようとしている人
この方が前職でどの程度の立場に居たかです。この点、過去の裁判では(あってはならないことですが)いわゆる、みなし管理職のケースでも競業禁止規定を有効としたものもありますので、全くの平社員でない場合は危ないと考えた方が良いでしょう。
>慣れている市場で働きたいといっているのですが、同じ地域に会社があり
>先方の市場の内情もよく分かっていることが相手には都合が悪いのかもしれませんが、
これは既述の「目的が前社の正当な利益の確保」「制限の対象が同一職種への就労」「制限の期間・場所的範囲が適切」に充分該当するでしょう。
以上の事から考えるに、その方の前職での職務上の肩書きや、前社の就業規則に競業禁止規定があったか、競業禁止への代償措置が為されているかでご判断下さい。それ以外の部分では競業禁止規定の有効性の条件に該当はしています。
回答者 : サイト管理人 北条たかと この回答者の詳細はこちらをクリック